「エステサロン 顧客管理 無料」で検索したときに出てくるのは、フリーソフトやアプリの一覧です。ただ、選ぶ前に決めておくべきことが2つあります。
- カウンセリングシートに何を書いているか(法的な扱いが変わります)
- コース契約・回数券を扱っているか(残回数の管理先が必要になります)
この2つが決まらないと、どの無料ツールが使えるかも決まりません。この記事は、そこから順に整理します。
この記事でわかること
- カウンセリングシートが要配慮個人情報になる条件(条文とガイドラインで確認した結果)
- 施術前後の写真の扱い
- 無料で始める4つの方法と、それぞれの壊れ方
- 無料で足りるかの判定方法
- 無料枠の実際の線引き(自社の上限も正直に開示します)
先に確認: そのカウンセリングシートは要配慮個人情報を含むか
エステの初回カウンセリングでは、肌トラブル・アレルギー・既往歴・服薬・妊娠の有無などを確認することがあります。どこまでが要配慮個人情報になるのかを、条文で確認しました。
「病歴」は法律の本文に書かれている
個人情報保護法第2条第3項は、要配慮個人情報に「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴(略)」を挙げています(e-Gov法令検索・個人情報の保護に関する法律、2026-08-06取得)。
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)2-3 は、この「病歴」を「病気に罹患した経歴を意味するもので、特定の病歴を示した部分(例:特定の個人ががんに罹患している、統合失調症を患っている等)が該当する」と説明しています(出典: 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」、2026-08-06取得)。
誰が記録したかという条件はありません。
一方、政令が定める部分は「医師等」に限定されている
施行令第2条は、要配慮個人情報のうち政令で定める記述等を列挙しており、健康に関わる部分は次のとおりです(e-Gov法令検索・個人情報の保護に関する法律施行令、2026-08-06取得)。
(2)本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者(次号において「医師等」という。)により行われた疾病の予防及び早期発見のための健康診断その他の検査(略)の結果 (3)健康診断等の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師等により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと。
エステティシャンは「医師等」ではありません。したがって、施術者自身が見た肌状態の評価は(2)(3)には当たりません。
結論: 記載項目で決まる
| カウンセリングシートの記載 | 要配慮個人情報か |
|---|---|
| 「乾燥がひどい」「毛穴の開きが目立つ」など施術者の所見 | 当たらない |
| 「アトピー性皮膚炎と診断されている」など申告された診断名 | 当たる(病歴) |
| 「甲状腺の薬を服用中」など疾患名を伴う服薬情報 | 当たりうる(病歴) |
| 「妊娠中」 | 病歴ではない。ただし取扱いへの配慮は必要 |
| 身体障害があること(手帳の所持、外見上明らかな場合を含む) | 当たる(政令第2条第1号) |
| 施術日・メニュー・料金・連絡先 | 当たらない |
「アレルギーの有無」「既往歴」「服薬中の薬」の欄を作っているなら、要配慮個人情報を保有しています。
該当すると変わる3点
| # | 変わること | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 取得に原則として本人の同意が必要 | 法第20条第2項 |
| 2 | 漏えい時に人数の下限なく報告義務 | 施行規則第7条第1号 |
| 3 | オプトアウトによる第三者提供が認められない | ガイドライン通則編2-3 |
2が重い点です。通常の個人データなら「本人の数が千人を超える」場合が報告対象ですが(施行規則第7条第4号)、要配慮個人情報を含む場合はこの人数要件が掛かりません(e-Gov法令検索・個人情報の保護に関する法律施行規則、2026-08-06取得)。顧客が30名でも報告対象になりえます。報告は速報に加えて30日以内の確報が必要です(同規則第8条第2項)。手続きは個人情報保護委員会の漏えい等の対応とお役立ち資料(2026-08-06取得)にまとまっています。
同意欄の文面
難しい文面である必要はありません。何のために取得し、何をするかが分かれば足ります。
【個人情報の取扱いについて】 当サロンは、ご記入いただいた内容(お名前・ご連絡先・お肌やお身体の状態・既往歴・服薬状況を含みます)を、 施術の安全確認、施術記録の作成、次回ご来店のご案内、およびお問い合わせへの対応のために利用します。 ご本人からのご請求により、登録内容の開示・訂正・削除に応じます。
上記に同意します □ ご署名 ______________ 日付 ____年__月__日
「既往歴・服薬状況を含みます」と明示している点が要点です。あわせて法第32条により、サロン名・所在地・連絡先と請求手続を、シートかWebサイトのどちらかに記載してください。
施術前後の写真の扱い
エステでは経過の記録として写真を撮ることがあります。顧客と紐づけて保存している写真は、個人データの一部です。
したがって法第23条の安全管理措置の対象になります。実務としては次の4点です。
- スマートフォンのカメラロールに入れっぱなしにしない — クラウド同期で個人のアカウントに上がり続けます
- 共有アルバム・共有フォルダの設定を絞る — リンクを知っている全員が見られる状態にしない
- 退職したスタッフの端末から消す(法第24条 従業者の監督)
- SNSに載せる場合は、別途その用途の同意を取る — 施術記録としての同意と、公開の同意は別物です
4は見落とされやすい部分です。カウンセリングシートの同意は「施術の安全確認と記録のため」であって、公開を含みません。ビフォーアフターを掲載するなら、掲載用の同意を分けて取ってください。
無料で始める4つの方法
方法1: エクセル/スプレッドシート
費用ゼロで自由が利きます。顧客マスタ(1人1行)と来店履歴(1来店1行)の2シートに分け、顧客IDで紐づけるのが基本形です。1シートに履歴を横へ足していく作りは、来店のたびに列が増えて破綻します。
壊れるポイントは5つです。
- 電話番号の先頭の0が消える(書式が「標準」のまま。消えた番号は復元できません)
- 日付の形式が混在する
- 複数人の同時編集で上書きされる
- コピーが増殖して原本が分からなくなる
- 予約台帳と二重入力になる
要配慮個人情報を含む場合、ファイルのパスワード設定・保存場所の一本化・バックアップ・共有範囲の限定は最低ラインです。Googleスプレッドシートを使うなら、共有を「特定のユーザー」に限定してください。
方法2: 無料の顧客管理アプリ・フリーソフト
見るべきは機能一覧ではなく次の5点です。
- 上限(人数・件数)と、上限到達時の挙動
- CSVで書き出せるか — 書き出せないと乗り換えられません
- サービス終了時のデータの扱いが規約に書かれているか
- 広告表示の有無と、お客様に見える画面に出るか
- 事業者情報の開示 — 名称・所在地・保管方法
5が重要です。外部サービスに顧客データを預けることは個人データの取扱いの委託にあたり、法第25条により委託先の監督義務がかかります。一人サロンで現実的にできるのは、プライバシーポリシーと利用規約を読んで確認するところまでです。記載が一切ないサービスは選ばないのが最低ラインです。
要配慮個人情報を扱うなら、スタッフごとにアカウントを分けられるかも必須要件に入ります。共有アカウントの使い回しでは、退職時にアクセスを止められません。
方法3: 紙のカウンセリングシート
同意の証跡としては紙が扱いやすい形です。ただし実務コストは無料ではありません。
- 来店のたびに探す時間
- 「3か月来ていない人」を抽出できない
- 紛失・災害に弱い(法第23条の「滅失」の防止という観点で複製が作りにくい)
- 保管場所が増え続ける
なお、五十音順など容易に検索できるように体系的に整理されていれば、紙でも「個人情報データベース等」に当たりえます(法第16条第1項第2号)。「紙だから対象外」ではありません。
現実的には、紙で取得して同意の証跡として保管し、日々の検索・抽出はデータ側で行う併用が扱いやすい形です。
方法4: 予約システムの無料プラン
予約と顧客が同じ場所にあるため、二重入力が消えます。方法1の「壊れるポイント5」がそもそも発生しません。
エステで意味がある抽出は次の3つです。
- コース契約の期間内に消化が遅れている顧客
- 初回で来て2回目に来ていない顧客
- 一定期間来ていない顧客
1はコース契約を扱うサロンには必須です。期間内に消化できないと中途解約や苦情の原因になります。
無料で足りるかを判定する
まず物理的な上限件数を出す
1日の受付可能件数 = 営業時間 ÷(施術時間 + バッファ)
月間の上限件数 = 1日の受付可能件数 × 月の営業日数
1人で営業8時間、施術90分+バッファ20分(=110分)なら1日4件。月22日で月88件が物理的な上限です。稼働率5割なら月44件。
無料枠と突き合わせる
| サービス | 無料プランの月間予約件数 | 無料プランのリマインダー |
|---|---|---|
| Airリザーブ フリー | 公式比較表に「プランに関わらず無制限」と記載 | 予約確認メールのみ(リマインドはベーシック以上) |
| Square 予約 フリー | 記載なし(1店舗限定) | メール・SMSの自動リマインダーが含まれる |
| STORES 予約 フリー | 50件 | 記載なし |
| Salon-Booky Free | 30件(顧客20名) | Basicプランのみ |
(各社公式サイト、2026-08-06取得)
判定の目安:
- 月30件以下 → どの無料プランでも足ります
- 月50件を超える → STORES 予約と当社のFreeプランは上限に当たります
- リマインドを自動で送りたい → 無料で使えるのはSquare 予約です
正直に書きますが、当社のFreeプランは月30件・顧客20名なので、営業しているエステサロンの本番運用としては足りません。画面と予約フローを確かめていただくための枠です。
コース契約を扱うなら、無料枠の判定より先に決めることがある
残回数をどこで管理するかです。予約件数の上限を満たしていても、残回数を追えなければ運用は完結しません。
コース契約が特定商取引法の特定継続的役務提供に当たる場合、中途解約に応じて精算する義務があり(第49条)、精算には残回数の確定が必要です。対象条件と書面交付義務はエステサロンが負う特定継続的役務提供の義務に、予約システム側の要件はエステサロンの予約システムの選び方にまとめています。
回数管理を予約システムの外(表計算など)でやる場合、次の3点を先に決めてください。
- 顧客IDで予約と消化を紐づける
- 消化を記録するタイミング(来店時か、施術完了時か)
- キャンセル時に消化を戻す手順
4つの方法の比較
| エクセル | 紙 | 無料アプリ | 予約システム(無料枠) | |
|---|---|---|---|---|
| 費用 | 0円 | 紙代 | 0円 | 0円 |
| 検索・抽出 | できる(設計次第) | できない | できる | できる |
| 予約との二重入力 | 発生する | 発生する | 発生する | 発生しない |
| 複数人での同時利用 | 事故が起きる | できない | サービス次第 | できる(上限内) |
| データの書き出し | 元がファイル | できない | 要確認 | 要確認 |
| バックアップ | 自分で取る | 事実上できない | 事業者側 | 事業者側 |
| 回数券の残回数 | 自分で作る | 手計算 | サービス次第 | サービス次第 |
| 第25条の委託先監督 | 不要 | 不要 | 必要 | 必要 |
「無料」だけで並べるとエクセルがいちばん自由です。ただし予約を別で管理しているなら、二重入力のコストが毎日かかり続けます。
どの方法でも必ずやる4つのこと
- 利用目的を決めて、書いて、掲示する(法第17条・第21条・第32条)
- 年に1回はCSVで書き出して手元に保存する — サービスが終わっても乗り換えたくなっても動けます
- バックアップを持つ(法第23条の「滅失」の防止)
- アクセスできる人を管理する(法第24条)。スタッフが辞めたらその日のうちに削除する
4を実行するには、人ごとにアカウントを分けられる必要があります。ツール選びの基準に入れてください。
まとめ
- カウンセリングシートが要配慮個人情報になるかは、記載項目で決まる
- 施術者の所見は該当しない(政令第2条第2号・第3号は「医師等」に限定)。申告された診断名は「病歴」として該当する
- 該当すると、取得に同意が必要・漏えい時は人数の下限なく報告対象・オプトアウト提供不可
- 施術前後の写真も個人データ。SNS掲載の同意は施術記録の同意とは別に取る
- 無料で始める方法は4つ。無料アプリはCSVで書き出せるかを契約前に確認する
- 無料で足りるかは、物理的な上限件数を計算してから無料枠と比べれば判定できる
- コース契約を扱うなら、無料枠の判定より先に残回数の管理先を決める
料金と機能の範囲は料金プランに全項目を掲載しています。